「失礼します」
ぺこりと頭を下げて隣を通り過ぎようとしたら、
「ああ、新井山さん、待ってください」
と、先生に呼び止められた。
「はい、なんですか?」
「新井山さんにお願いがあるんですけど、いいですか?」
「お願い……?」
いったいこの状況で何をお願いされるんだろう。
すると先生は、虫も殺さないようなニコニコ顔で、あまりにも酷なことを口にしたんだ。
「1時間ほど、多賀宮くんを見張っていてください」
なぜこんなことになったんだろう……。
私は一旦出たはずの教室に戻り、向かい合う形で多賀宮くんと机を合わせている。
多賀宮くんは相変わらずの愛想のない顔で、ブルーのシャーペンを指先でくるくると回しながら、机の上のプリントを凝視していた。
ちなみにプリントの中身は、教科書をきちんと見ていれば問題がないレベルの数学の基礎問題。
気になる……。
多賀宮くん、試験は終わったばかりだっていうのに、いったいなんでプリントをやらされているの。なぜなの?