落ち着いた返事と同時に、彼が教室に入ってきたその瞬間、空気が変わった。
まるで一陣の風が吹き込んできたような気がした。
彼は暑苦しい教室の中で、たったひとり夏服だった。
ベリーショートの黒髪はかすかに波打ち、澄んだ瞳は黒く、涼しげで。
背は見上げるほど高く、白の開襟シャツから覗く腕は意外にもたくましく筋肉質で、腰から下の太ももも、がっしりとしていた。
何かスポーツをしているのだろうか。
長い手足と恵まれた体型を見て、運動神経がほぼゼロの私は、羨ましくなる。
だが教室はいきなりやってきた転校生のあまりのイケメンぶりに、主に女子が騒然としはじめ、完全に手がつけられない状況になっていた。
「はーい、静かに。多賀宮くん、挨拶をお願いします」
「はい」
多賀宮と呼ばれた彼は、背中の黒板に向き合って、チョークで名前を横書きで書いた。
多賀宮流星(りゅうせい)。
名前までイケメンだ。
名前を書き終えた後、彼はくるりとこちらを向く。