「わかった。苑子(そのこ)さんがこんなこと知ったら、どっちに転んでも大変だしな。院内でもかんこう令を敷いておかなくちゃな」
いたずらっぽくニコッと笑って、おじいちゃんはパチリと私にウインクをして見せた。
苑子さんというのはお母さんのこと。
私が隠したがってるのがわかるから、わざと軽い調子で言ってくれたんだと思う。
「ありがとう、ごめんね」
おじいちゃんの言う通り、お母さんにはこんなことを知られたら、医者としてどうのって過剰に期待されそうでもあるし、逆に深夜に家を出たことに対して、行動が制限されてしまうかもしれない。知られないに越したことはない。
「しかしよく心肺蘇生法なんてできたな」
おじいちゃんが感心しながら、私の肩を抱き寄せる。
「……本は、読んでたから」
我が家にある医学書はすべて父のもので、内容はほとんどわからないけれど、読めるものは目を通している。
それは勉強ではなくて、私にとっては父との会話だと思ってるんだけど……。