「意識、ない! 呼吸は……してないっ! 脈も……ない!」


無い無い尽くしに泣きたくなる。

10センチでも人は溺れる。本当だなんて、知りたくなかった!


ジーンズにねじ込んでいたスマホを取り出し、震える指で119番を押した。


「あっ、あのっ、私、散歩をしていて! そしたら、ここに、人がっ……!」


緊張のあまり、思うように言葉が出てこない。


【落ち着いてください!】

「はっ、はいっ!」


やっとのことで場所を伝え、叫ぶ。


「人が溺れているみたいです! 意識がありません、早く来てください!」


電話を切った後、びっしりと桜の花びらがまとわりついたその人の口の中に、指を突っ込んでかきまわす。


抵抗もされなかったし、桜の花びらがごっそりと取れた。

それから胸と喉を見ても、動かない。

気道を確保したのに呼吸が戻らない!
なんでなの!?


恐怖で震えが止まらなくなる。

歯がカチカチと音を立てて、頭の中で鳴り響く。


高校生の私にできることなんてない。私はお医者様じゃない!