動いた……?


目をこらすと、指先が確かに、ブルブルと震えている。

これもまさかの展開だ。


えっ、生きてるの!?


頭がクラクラする。


倒れそう……って、倒れてる暇ない!

生きてるなら助けなきゃ!


カッと目を見開き、両手で思いっきり頬を叩く。


ジーンと痺れるような痛みが、これは現実だと私に教えてくれた。

こうしてはいられない。

桜の木の下まで駆け寄り、腕を掴み、木の幹のくぼみに落ち込んだ体ごと引き上げた。


桜に溺れて死にかけているのは、男の人だった。

鳥や花に間違えるほど手が白く、おまけに顔も、作り物の人形みたいにきれいだった。


なんてきれいな人……。


ぼうっと見惚れかけて、慌てて理性を取り戻す。

見とれてる場合じゃなかった!

意識を失った人間は、とにかく重いんだ。


「ねぇ、起きて! 大丈夫ですか⁉︎ 私の声、聞こえますか!」


声をかけながら、背中に回って両腕で羽交い締めにし、一段高く、水が流れない道路の端にズルズルと引きずって移動した。