でも、じっと木に引っかかっているのがおかしいなと思って、あれは花だと考え直した。
白い百合か何かが、桜の樹の下に生えてて、雨風に揺れてるんだって。
でも百合というには存在感がありすぎる。
だからさらに距離を縮め、目を凝らし、自分が見ているものが何かわかって、一気に背筋が凍った。
花びらだと思ったところに指があった。
指……。
あれは、花でも鳥でもない、人の腕だ!
「ひっ!」
息を吸い込んだ喉が、ヒュッとなる。
人間は驚くと、悲鳴すらあげられないんだって、その時初めてわかった。
持っていた傘が私の手から離れて飛んでいく。
こうなると膝丈のビニールカッパなんか役に立たない。
降り続ける雨と風にあっという間に全身びしょ濡れになって、でも動けなくて、ただパニックで、どうしよう、どうしようと頭がぐるぐるして、足がガクガクと震え、倒れそうになる。
まさか先客がいるなんて!
えっ、私どうしたら?
死んでる人発見したら、どうしたらいいの?
呆然とその人を見ていたら、指先がピクリと、動いたような気がした。