『えぇ、嘘! 真ん中の一番前の席って……。冗談でしょ?』

「ごめん、それが冗談じゃないんだよね」

「アハハ」と乾いた笑い声を上げてしまうものの、電話越しからは何も言葉が返ってこない。


席替えが行われたこの日の夜。

食事と入浴を済ませ、あとは寝るだけ状態の私は光莉と自分の部屋で電話をしていた。


ベッドに腰掛け、気まずくて何度も無意識に髪に触れてしまっていると、電話越しから盛大な溜息が聞こえてきた。


『真ん中の一番前だなんて、気が抜けない席じゃない。萌ってばずいぶんと神席を引き当ててくれたね』

“神席”それは今日、柳瀬も言っていた言葉だった。

光莉が言う“神席”とは意味合いは全然違うけれど、ドキッとしてしまう。


「……だからごめんって言っているじゃない」

それを悟られないよう平静を装う。

電話でよかった。

声だけいつも通りを装えばバレずに済むから。

私の心の中が今、色々な感情で複雑にかき乱されているのが。