突然現れたカレに視線は釘づけになってしまう。

笹沼くんも私から視線を逸らすことなく、ジッと見つめ返してくる。

静かな教室内。
カレは静かに言った。


「自分の正直な気持ちを消すようなこと、するなよ」


そう言ったカレが掴む腕の力が強まった。

そして真剣な面持ちを向けてくる。


「それは皆森さんの気持ちだろ? 無理やり消すことない」

「笹沼くん……」


黒板に書かれた柳瀬への気持ちを見る笹沼くんにつられるように、私も黒板を見つめた。


消さなくてもいいのかな? こんな想いをいつまでも抱えていたら迷惑なだけじゃないの?


「俺も消したくないから。……自分の気持ち」

「え?」

そう言うと笹沼くんは掴んでいた私の手を離し、チョークを手にした。


「皆森さんが消すっていうなら、俺も消さなくちゃいけなくなるだろ? ……俺は嫌だから、そんなの。自分の想いを消したくない」


そう言うと笹沼くんは私が書いた気持ちの横にチョークで書いていった。