先に立ち上がり、いまだに腰を下ろしたまま神妙な面持ちで私を見上げる笹沼くんに、「帰ろう」と言葉を投げ掛けた。


けれど一向に笹沼くんは立ち上がることなく、私を見上げたまま。

「……笹沼くん?」


名前を呼ぶと、カレは私を見据えたままゆっくりと立ち上がった。

そして真剣な面持ちで今度は私を見下ろしてくる。


「皆森さん、俺……」

言い掛け、言葉を詰まらせる笹沼くん。


少し経つと何事もなかったように「駅まで送る」と言い、先に歩き出した。

後を追いかけるも、気になって仕方ない。

さっき笹沼くんはなにを言おうとしたのかな?


気になっても聞くことはできず、あっという間に駅に辿り着いてしまった。


「ありがとう、送ってくれて」

「いや。……ごめんな、なにも気の利いた言葉ひとつ言えなくて」

また謝ってきた笹沼くんに、首を横に振る。


「だからそんなことないってさっきも言ったでしょ? 聞いてもらえて嬉しかった。本当にありがとう」

「皆森さん……」