『酔いどれ都』という、なんだかお酒好きのオッサンたちがこぞって集まりそうなネーミングの小料理屋に連れてこられた私は、40代くらいのまさに美魔女ってほどの綺麗な女将さんに出迎えられて、神宮寺くんとカウンター席に座ることになった。
「いらっしゃいませ〜。……もしかして、渉くんのカノジョ?」
手早くお通しのたこわさを小皿に盛りながら、着物姿の女将さんがどことなく嬉しそうに目を細めて神宮寺くんに尋ねた。
名前まで知ってるってことは、彼は相当このお店に足を運んでいるらしい。
そして女将さんの質問に彼が答える前に、すかさず私が口を挟んだ。
「まさか!そんなわけないです!」
「え〜、そうなの?渉くんが女の子連れてきたの初めてだったから、つい聞いちゃった」
「彼のメガネを壊したお詫びなんです」
私のような、嫁に行き遅れたどころか恋愛をすることから何年も遠ざかっているような女が彼女だなんて、勘違いさせてしまったら神宮寺くんに申し訳ない。
当の本人は涼しい顔で「まあ、そんな感じです」と合わせてくれた。
「渉くん。こんな美人さん、今のうちにちゃんと捕まえておかないとすぐに他の男に持っていかれるわよ?」
薄化粧なのにやたらと艶っぽい唇の口角を上げて、女将さんがフフフと微笑む。
美人さんって、私のことを指しているのよね?
ありがたいけど、そんな称号など貰えないくらい錆び付いたプライベートを送っている。
「お、女将さん……なんていい人なの……」
と、おいおい泣きマネをしたら、隣から冷たく水をさされた。
「ちょっと春野さん。お世辞を真に受けないでくださいね」
「あらまぁ、渉くんったら意外と意地悪なのねぇ。1人で来る時はそんなキャラじゃないのに」
「俺はもともとこんな性格ですよ」
常連客とのやり取りといった感じで、女将さんは神宮寺くんを軽く睨みつつもビールを出してくれた。
「お料理が決まったら、また聞きに来ますね。ゆっくりお過ごしください」
「ありがとうございます」
他のお客さんの相手もあるからか、女将さんはキュートなウインクを残して私たちの前からいなくなった。
ひとまず、ビールがなみなみに入ったジョッキをカツンと合わせて乾杯した。