グッと彼が身を引くのが分かった。
掴んでいた腕をさりげなくゆるゆると離される。

「……ランチとか苦手なんで」

「じゃあ何なら得意なの?」

「……仕事が立て込んでるんで」

「じゃあいつなら時間あるの?」

「……なんでそんなに弁償したがるんですか」


強引なアラサー……いや、ばばあと思われてたりしたら悲しいけど、これは私の性格だ。
中途半端に終わらせるのが苦手な、変なところ自己満足に近い完璧主義?


「後悔するのが嫌なの。あの時もっと謝ればよかった〜とか、やっぱり弁償すればよかった〜とか、悪いことしちゃったな〜って後でモヤモヤするのが嫌いで。だから私の気の済むようにしたいんです」

「…………なるほど」

一定してテンションの低い彼が、一瞬諦めにも似た表情を見せた。
こいつ、めんどくさいな。
って聞こえてきそうな顔。

口元を緩めて、鼻で笑われた。


「しょうがない人だな。承諾しないといつまでも言われそうなので、付き合います」

「人を生き霊みたいに言わないでよ」

失礼なヤツめ、と恨みがましく言うと、彼はポケットをゴソゴソし始めた。
何をしているのかと眺めていたら、

「何か書くもの持ってないですか」

と言うので、制服のベストの胸ポケットに入れていたボールペンと、お財布に入っていたレシートを渡した。