「話はそれだけなので。それじゃ、失礼します」

律儀にぺこりと頭を下げて、薄汚れた作業着の彼は早々に立ち去ろうとしている。
慌てて腕を掴んで止めた。

「ちょっと待って」

「まだ何か?」

やや迷惑そうに眉間にシワが寄る。
その反応で彼の性格を悟った。

無気力な目をしてると思ってたけど、関心が無いのだということを。

関心が無いものには執着せず、距離を置いて遠くから眺めるような感じ。
こういう人ってたま〜にいるけど、社会人になってからはあまり見かけなかった。


「とりあえず金額を教えて」

「だから、金はいらないって」

「いいから、とりあえず金額だけ」


そっちが頑なに拒否するなら、私にだって考えがある。
頑固な女だと相手は相手で悟ったらしい。
分かりやすくため息を吐かれ、聞き取れるかどうかの返事が微かに聞こえた。


「8500円」

「……なるほど」


思ってたよりも全然安かった。


「これからあなた、時間ある?」

「は?」

ぶしつけに聞いたためか、彼は訝しげに首をかしげた。


「8500円分の食事をご馳走します!豪華なランチに行きましょ」