私がパタパタと1階のロビーに着いた頃には、神宮寺くんは作業着姿で受付の前に立っていた。
なんというか、なんにも考えてなさそうな顔でぼんやりとそこにいるという感じ。


「お待たせしました」

私が声をかけると、彼は視線を合わせて「どうも」と会釈した。


「あ、メガネ出来上がったんだね」

早速この間との変化を見つけた。
先代のメガネはレンズが割れたフレームのみのものしか知らないが、それとかなり似た形のメガネをかけていた。

なるほど、変化を好まない人らしい。


「視界は良好になった?」

「……はい」

コクリとうなずいた神宮寺くんは、それきり一向に話し出そうとしない。

痺れを切らして、私から切り出す。

「おいくらだった?弁償します」

そう言って手に持っていたお財布を開けようとしたら急に彼の手が伸びてきて、開きかけたお財布を強制的に閉められた。


「今日は断りに来ました」

「そんな、気にしないで。私がぶつかったのが原因だったんだから。もしここでお金を受け取るのが嫌なら振り込んでもいいし……」

「いらないです、本当に」

彼は頑なに首を振ると、付け加えるように

「もともと買い換えるつもりだったんで」

と続けた。