「きゃー!!!!」「いやぁぁあ!」

彼氏彼女、手を繋いで腕を組んで入ってきて私を見ては甘い声を出す彼女。
女の子同士入ってきて、あなたたちは女の子なの?と思うくらい大きな悲鳴を挙げて走り去っていく子たち。
男の子同士で余裕そうに、私の前を通過していく人たち。


様々な人たちがいる中、私は朝から貞子役として人を驚かせていた。


「…わー」

私がやる貞子にセリフなんてなくて。
ただ突っ立っていればいいのかと思いきや、昨日のリハーサルで驚かせるセリフが欲しいと無茶ぶりをされ考えた挙句出てきたのがこの言葉。

「いやぁぁぁっ」

私の中で、ただの棒読みでしかないこの『わー』の言葉もこの雰囲気に入ってきている人たちの中では違う言葉に聞こえているらしく、たくさんの人がいい反応を見せてくれる。

そのおかげで―…

「椎名さんめっちゃ頑張ってるみたいだね!お客さんから好評だよ!」

裏方にいた女の子たちがゾロゾロと私の姿を見てぐっ!と親指を立ててくる。

たぶんそれはその子たちの先入観があるからで、私はただ棒読みで言葉を発しているだけ。まあでもそれで喜んでくれるのなら私にとっても楽だしありがたい。