「みぃ?どうかした?」

「今、超超超かっこいい人がいたんだけど!!」

「・・・ユウはどうした。」

「それはそれ!これはこれ!!

あんなに堂々とお店覗き込んでたのにー・・・どうして入ってくれなかったんだろぉ。」



私の目の前だというのに思い切りぶりっこモードに突入するみぃ。

頬に両手を当て、くねくねと体を揺らす姿に一歩後ずさる。

私はその姿と、そのみぃを見て目の色変えた入場待ちの男達にため息をつきながら、

行き交う人しか見えなくなったドアに視線を送った。

・・・そんなにかっこよかったんだろうか。



かっこいい、という言葉はあの男を思い出す。



私から、いろいろなものを奪った、あの男を。



モヤが掛かったような残像が脳裏に浮かぶ。

けれど、私はそれを首を振って打ち消した。

もう二度と会うことはないんだから。思い出す必要なんてない。

私は自分の思考を変えるために、目の前の巻き髪に声を掛けた。



「みぃ、仕事!」

「あのレベルじゃなくていいから、誰かいい人来ないかなー。」

「アンタ、手伝いに来たんじゃなかったの?」



わざとらしいまでの呆れ声で返せば、みぃは「男探しも仕事!」と自慢げに言った。

自慢にならないって。

それでも、それに「バーカ」なんて言って「何よー」なんて返されて。

私は、思考を現実に戻した。

警報の鐘が鳴っているのに気付きながら、聞こえないフリをして。

嫌な予感に、蓋をして。