「失礼します」


職員室の扉を開けると、こっちを振り向いたのは葵だった。


「・・・葵」


「終わったんですね、ではこちらにお名前をご記入ください」


俺は、プリントを受け取りもしないで、葵の前に近づいた。


「俺、連絡くるの待ってるんだけど」


「お話しすることは何もありません」


「どうしてだよ、俺はずっと心配してたし、会いたかったのに」


「ご記入いただかないと、今後の場所のご提供に差し障りがあるかもしれませんけど」


仕方ないから、しぶしぶ名前を書いた。


「ありがとうございます、では戸締まりがありますので、お引き取りください」


葵は、背中を向けてデスクを片づけ始めた。


その背中は、あの時のまま、いとおしくてたまらなくて。


我慢できなくて、抱きしめた。


「ちょっと、離してください」


葵がどんなにがんばったって、俺の力にはかなわない。


「もう少しだけ、このままでいさせてくれよ。


あの時の俺たちみたいに」


「・・・やめてください」


「ちゃんと説明してくれるまで、離さない」


「説明するつもりはありません」


「いやだ」


もう、今日を逃したら、一生説明してもらえない気がした。


俺は、必死になって葵に訴えた。


「黙っていなくなられた俺の気持ち、少しは察してくれよ。


逆に葵がそうされたら、納得できねーだろ?」


「・・・わかった、話すから。


今日は亮太くんがいるから、また別の日に」


その時、職員室の扉が開いた。