「リビングに来い」唇を離した諒はさっきまでの甘い空気を一変させる少し低い声で私を呼んだ。なんであんなに切り替えられるの?


私はまだ心臓がドキドキと大きな音を立てて、頬が赤らんでいるというのに。


あんなキス・・・。唇に触れて思い出す。食べられるかと思った。でも、なんでだろう。


嬉しいはずなのに、ドキドキして幸せなはずなのに、どこかに感じる最後のキスだという不安。

もしかして、社長としての話って専務の娘さんと結婚するとか?で、両思いになったけれど、サヨナラ?


悪い予感しか浮かばない私は、諒が出て行ってもすぐにはリビングに向かうことができなかった。


「よし、これ以上悪あがきしても仕方ない」


五分以上経っただろうか。覚悟を決めて、寝室を出て、リビングに向かった。「遅くなりました」と声をかけると、諒は本当にあの電話のときに見た冷徹社長の顔になっていた。



もう今は諒なんて呼べない。その威圧感にソファに座る社長の隣に座ることは出来ず、彼の足元で正座をした。