「…ウィン、俺のことは嫌いで構いません」


でも、と俺は続けた。


「姫様の前では…お互い普通に接しましょう」


少し間が空いた後、ウィンは値踏みするような目で問いかけてきた。


「それは、"姫"の為?」


「…いいえ。ルチル様の為です」


俺の答えを聞いたウィンは、俺に背を向けて言った。



「…了解」



そう言って歩き出したウィンの後ろ姿が見えなくなるまで、俺はその場に立ち尽くしていた。



目に見えない、不吉な塊を抱いて。





†††


翌日。



またいつも通りの一日が始まったわけで、あたしは執務室にいる。


あたしの他に、ライト・ウィン・アズロがいるんだけど…。



「…………」



…なんか、変。


普通に会話のやりとりはするけど、いつもより沈黙の時間が長い気がする。


よく質問してくるアズロも、さっきから黙ってるし。



何より、この空気…。


ピリピリしてません?



どうにかして、この空気を変えたいのに、小心者(だと思ってる)のあたしは、なかなかいい話題を思いつけないでいた。