太陽が沈んでいって、空がオレンジ色になるころにはもう練習は終わっていた。
「じゃあね、兄ちゃん」
「おう。またな」
片付けが終わった奴から次々と家に帰って行く。
家に帰ると、かあちゃんと夕はんが待っているんだろうな。きっと。
「成宮ー、みんな帰った?」
「帰った帰った。『今日もありがとうな』って野田さんも帰っちまったし」
「うっそ、マジで?」
「うんうん。ほんとほんと」
「ちぇっ…、また逃げられたか」
練習が終わったら、お礼として食べに行こうぜ。
いつもそう言っておきながら、練習が終わり、少年たちが帰ってからそそくさと帰ってしまう。
「まぁ、その時になったらかなりの量食べたらいいんじゃね?」
成宮はお気楽ものだ。
思考はかなり楽天的だが、いざ野球となったらその勘はかなり鋭い。
――いや、成宮は人より五感が優れている。いや、それだけではなく、いわゆる第六感と言う奴も鋭い。
味方だからこそ頼もしいが、敵ならかなり厄介なもんだ。
ふと、腕にある時計を見る。
「…やっべ、成宮」
「どした?」
「今すぐ帰んないと、夕食なしにされる…」
「…さあ、急げ!」
そのあとは無駄口を叩かず、静かに帰る用意だけをさっさと進めていく。
「すみません」「許してください」
ゴゴゴゴゴ…
こんな効果音が、今は正しいだろう。
「一分遅刻だ。みんなが一分待ってたんだぞ」