見覚えのある背中。
きっとあれは、あなた。
きっとじゃない…絶対だ。
そして隣に並ぶもう一人の人物。
あの背中も見たことがある。
まだ脳裏に走り去る姿が残っているから。
「どうして…」
ふいに零れ落ちる言葉は、波の音が拐っていった。
ごめんなさい。
泣いてもいいですか。
我慢ができないの。
強くなろうと思っても、こんな光景を見てしまったら強くなんかなれないよ。
だって、涙が溢れでる。
止められなくて加速していく。
「優くん…」
名前を呼んでも聞こえませんか?
あたしはあなたの中にいませんか?
やはりあなたはあの人が好きなようですね…。
唇を噛み締めて、二人の背中から視線を外し、その場から走り去った。
夜空に浮かぶ月が、不気味な色をしていた。
まるで惨めなあたしを嘲笑うかのよう。
紅い月は、あたしの心を蝕んだ。