あの波の音。
暗闇の中の月明かり。
不気味な色をした丸い月。
そして二人の影。
いつになっても忘れられないの…。
「百合?準備出来た?」
そう言って、部屋をノックしたのはお母さんだった。
集合場所の空港までお母さんに送ってもらう。
あたしは慌てて、アイロンの電源を切り、キャリーバックを手に持った。
「準備できたよ!今行くね」
電気を切って暗くなった部屋を見る。
ベッドに置かれた優しく微笑むクマ。
あたしに似ていると安里くんがプレゼントしてくれたクマ。
このクマはあたしには似てないわ。
こんなにも優しく微笑むなんてできないもの。
安里くんにそっくりよ…。
「行ってきます…」
クマの人形に聞こえただろうか。
分からないけれどこう言って部屋から飛び出した。
何が起こるか分からない未来へ。