呼吸を忘れてしまうくらい綺麗だった。
まるで女優かモデルのようで、この学年にあんな人はいただろうかと不思議に思っていたその時…


彼女の背中を見つめていた視界に、ある人の姿が映ったのだ。



それは…あたしの愛しき人。



あたしなんかの存在に気づくことなく、廊下を颯爽と走っていく。
そんな姿が逞しく見えた。
彼女を追いかけているのだろう。



「…優くん…」



あたしには気づいてくれませんか。
こんな近くにいるのに、見えていませんか。


それくらい夢中だったということ。



あたしは行き場のないこの気持ちをどこにぶつければいいのだろう。
そればかり考えている。



このことを瞳に言ったら、こんな返事が返ってきた。



「その人って広瀬さんじゃない?私もね、噂でしか聞いてないから真相は分からないけど…」




「ん?なに?勿体振らずに言って…?」



瞳はあたしに気を使うような表情を見せる。


なに?
大丈夫、あたしは悲しまないから。



「…今優くんとすごい仲が良いんだって…」




だから…
だからあんなにも逞しかったのね。
だってあたしの隣を走っていくときの優くんの表情が、愛しいものを追うようだったから。



「…フルネーム教えて?」



あたしは瞳にこう言った。


「…広瀬ナナ…」




初めて聞く名前と彼女の存在。




疲れ果てた葉が、地上へ安らぎを求めて逝った。