もしこの光景を彼女が見ていたら、きっと悲しむはずだから。
だからあたしは小さく微笑んで、こう言う。
「…鈴木くん……何でもないよ!」
「安里は!?」
優くんから飛び出した言葉を聞いて、体が固まる。
知っているの?
あたしと安里くんが付き合ってるって。
あぁ、そっか。
当たり前だよね。
噂のひとつにもなっているよね。
だけどもうひとつ不安がよぎる。
それは付き合った理由。理由は聞いて欲しくない。
明確に答えられないから。
「ケンカしちゃったぁ…」
勝手に離れたなんて言えるはずがない。
「あっちで話そ?」
そう言って、あたしの手をぎゅっと握り、人気のない場所へと移った。
安里くんと何かが違う温もり。
これはきっと気持ちの問題だろう。
優くんの背中を追って、日々を送ってきた。
だけどだんだん遠くなって見えなくなってしまった。
でも今はこんなにも近い。