雑音さえ、安里くんの声でさえ、耳には入って来なかった。
ただ聞こえるのは心臓の高鳴る音だけ。



しばらく優くんから目が離せなかった。
すると、優くんに近づく少女。
また、気持ちが揺れる。


ピンク色の浴衣の中に、蝶々が優雅に飛んでいた。
まるで二人で見た、水族館のイルカのように。




あれは誰?
誰なの?



不安が募っていく。



そして悟ってしまうのだ。


あなたは遠いと…。



込み上げてくる涙。
だけど止めなきゃ。
隣には安里くんがいる。


こんな時に泣いてはだめだ。




「どうかした?さっきから黙ったままじゃない?」



ぐっと涙を堪えて、安里くんを見上げて作り笑いをする。



「ううん!何でもないよ。ちょっと帯がキツくて。ほら、浴衣って慣れないじゃない?」



こう言うと安里くんはあたしから視線を反らし、耳まで顔を赤くした。




「かなり似合ってるよ。」