まだ暑さの残る夏の日。彼はあたしを大人にしてくれた…。
「誕生日おめでとう、百合」
あたしの手を握り、照れくさそうに笑う安里くん。
この時、誰かの残像と重なった。
優しく微笑む姿が誰かと似ていたのだ。
すぐわかってしまう。
それが誰かって。
だから素直に喜べない自分。
小さく「ありがとう」と言った。
本当は、本当なら嬉しいはずなのにどうして?
もうやめてよ…。
だけど神様は引き合わしてしまうのだった。
空で地上を見下ろして笑うように。
…見てしまった。
今見たら心は割れて粉々になってしまうと分かっていたのに…。
駅から離れていくあたしたち。
ふと横を見たら、あなたがいた。
携帯を見てはキョロキョロとしている。
胸が急に苦しくなる。
帯のせい?違う。
これは、好きという感情。
あなたから目が離せなかった…。