彼の笑顔が不気味だった。
だから一歩後退りをしたのだ。


同じ空間にいたくない。満面の笑みの母親と、不気味に笑う彼。
この空気に呑まれたくない。



「帰って!!なんで?あたしたち別れたのに!!」



携帯をぎゅっと握る。
優くんからの連絡がきたのだろう、携帯が震え出す。
あたしには新たな存在がいる。



「百合、直くんは百合に貸したものを返してもらおうとしてわざわざ来たのよ?」




貸したもの?
なによ…それ。
あたし返し忘れたものなんてないわよ。



「部屋に多分あると思うんで。百合、部屋いい?」



こう言って、先輩は立ち上がりあたしの方に歩いていく。
眉間に皺を寄せて先輩を睨み付ける。



優くん、待って。
返事は必ず返すから…。




あたしたちは部屋へと向かう。



憎い感情を抑えて。



「…貸したものって何ですか?」