「本当だよ。百合が初めて」



「百合が初めてか…何か嬉しいなぁ…」



「うん、俺も」



春風がそよそよと木々たちを揺らしていく。
まるでダンスをしているようで『一緒に踊りませんか?』と誘っている感じに思えた。



駅までの距離、優くんを愛しく思う。
けれど目的地に着いてしまったら、急に悲しくなるのだ。



「じゃあね」



「バイバイ」



目を閉じてお互いの温もりを感じる。
別れのキス。


優くんを一番愛しく思うとき。



別れたくない本能をぐっと抑えて、別れをする。
電車の中、携帯に貼られたプリクラをずっと見つめていた…。



家に帰った頃は、もうすでに辺りは暗くなっていた。
街には明かりが灯り、家族団らんを過ごす。



「ただいまー」



リビングまで聞こえるように言って、視線を下へと向ける。




「え?…これって…」




靴置き場に見慣れたローファー。
呼吸がおかしくなる。



あたしは慌ててリビングへと走っていった。




「あ、百合。おかえりなさい。直くん来てるわよ」




…どうしてあなたは人を簡単に傷つけるの…






「おかえり、百合」