本当は怖いけれど、怖さを突き破る。
そうしないと勇気など出てこないから。


夕陽が沈み、月が顔を出す。
今日は満月だ。


部活が終わり、部室へと向かおうとしたとき、ある人に気がつく。
外灯で照らされる、少年。
春風が彼の髪の毛を泳がす。
ふわり、ふわり、気持ち良さそうに泳ぐ毛先。
彼は顔を伏せて、眠っているようだ。

気持ちが良かったのかな。


あたしは気づくのだ。
この人は、優くんだと。


「え…何で?」



疑問が浮かぶ。
首を傾げて遠くからずっと見つめる。

なぜ優くんが?
帰ったんじゃないの?


「あの子、夕方からずっといるよ。誰か待ってるみたい」



こう後ろから先輩に言われた。
夕方からずっと?
誰を待っているのかな?



あたしはゆっくりと優くんに近づいていく。




「優くん?」




春風が気持ち良くて寝てしまうのなら、あたしは春風となって優くんに心地よい眠りを誘うわ…。