『……あー……眠たい……え?』
まるで深い眠りから覚めたような気だるさと、また意識を取り戻したことへの驚き。
『俺は……死んだはずじゃ……。』
重たいまぶたを恐る恐る開けると、眩しい光が目に入る。1面真っ白に見えたその場所は、目が慣れてくると、どこか広い病院のような、しかし現実離れした部屋だった。
『どこだここは……病院……じゃないよな。』
寝台のような、それもまた真っ白な寝台。俺の着ている服も、椅子も、机も、ドアも。まだハッキリとしない重い頭を持ち上げるように、ゆっくりと身を起こした。
「ここ……どこ、だ……?」
声を発してみると、少し枯れていたもののしっかりと声は出せる。自分の手で、顔、首、胸、胴体、脚と順番に触り、自分がこの場に存在しているかを確認した。まだ自分が生きているか、死んでいるのかは分からないが、自分の意識を取り戻したことに、喜びと不安を感じる。
「目が覚める頃だと思いましたよ。遠ノ江友弥さん。」
声のする方角へ顔を向ける。ドアの方には人がいた。白衣のような真っ白な服にミルクのようなきめ細かい肌、吸い込まれそうなほど美しい金色の瞳、濡れ烏色の艶やかなショートカットの黒髪、天使を思わせる優しく包み込むような声色。見た目だけでは、男性か女性か分からないが、恐らく男性であろう。彼は俺の近くまでやって来る。見れば見るほど美男である。
「気分の方はどうですか?どこか具合の悪いところは?」
「あ、いえ……特には……。」
「……以外にも冷静で安心しました。普通なら、生き返ったら慌てるものなのですが……。」
「えっ……じゃあ、やっぱり……。」
その人はどんな女性も魅了してしまうような笑顔で、俺に笑いかけた。
「はい、貴方は生き返りました。まだ現世に復帰した訳ではありませんが、現時点では生き返ったことになります。」
現世という言葉に引っかかりを覚える。まるでファンタジーの世界のようだ。
「あの、色々と……聞きたいことがあるんですけど……。」
「あぁ、ご説明致しますね。」
彼はパチンッと指を鳴らした。すると、彼の背面に大きな画面のような物が映り出す。その映し出された画面には、分かりやすい絵と共にこう書いてある。
『天界……現世……下界……?』
「我々が現在居る場所はここです。天界へようこそ、遠ノ江さん。自己紹介が遅れましたね。私は大天使ガブリエル様に仕える天使の1人、ヨルと申します。」
「天使……。」
信じ難いことに、俺の目の前にいるのは本物の天使だった。普通なら信じない。しかし、何故か説得力がある。まず、俺が生き返ったことが奇跡なのだろう。立て続けに理解の追いつかないことが起こるが、何故か冷静でいられる。
「天使って、あの聖書とかに出てくる……あれ、ですか?」
「はい、あれです。ご理解の早い方で、安心しましたよ。さて……本題へと移りますが、よろしいですか?何故、貴方は生き返ったのか、ここにいるのか、何年の時が経ったのか。」
「えっ!?そんなに時間が経ってるんですか!?」
初めてヨルは、顔を歪めた。申し訳なさそうにうつむき、口を開いた。
「はい……貴方が亡くなってから、もう12年もの時が流れています。」
「12年も……。」
自分の感覚では、1晩寝たような感覚だった。そんなにも長い年月が過ぎているとは、思いもしなかった。その割には、俺の姿形は死んだ時のまま、学生のままなのだ。まっ先に思いついたのは、俺を最後まで見守ってくれたあいつらのことだった。
「あの2人は!慎也と、忠は!無事やってるのか!?生きてるよな!?」
俺は声を張り上げた。ヨルは、少し驚いた顔をするとまた指を鳴らした。
「お、お2人は元気ですよ。貴方の願いどおり、学校の教員として。」
「っ……そっか……よかったぁ……。」
2人の成長した映像を見る。2人の元気そうな姿にホッと胸を撫で下ろすと、ヨルがフフッと笑う。
「……自分より友情。己の身より、友の身。やはり貴方は、美しく強く、優しい魂の持ち主ですね。」
「え……。」
「彼らは貴方の母校の教師として、日々奮闘していますよ。永盛慎也さんに至っては、留年してまで。お2人共、貴方の為に必死になって教師を目指していたんですよ。今日ちょうど、永盛さんの初出勤です。」
「っ……はは……相変わらず、ハンパねぇ寝ぐせしやがって……。」
胸の奥がキュッと締まる。12年ぶりの友達の顔を見て、目頭が熱くなる。その高ぶった感情は、涙となって服にこぼれた。
「……いいなぁ……。」
思わず口に出したのは、死ぬ前から俺の願望だった教師になるという夢を叶えた2人を見て思ったこと。そう思うと少し辛かった。俺はもうあの2人と並ぶことも、話すことも、触れることも出来ないのだと思うと。しかし、ヨルの一言に俺は興奮する。
「もう1度、あの2人に会いたいですか?」
「……え?」
「貴方を生き返らせたのは、現世に送るためですよ。」
「……じ、じゃあ……俺は……!」
「……はい。もうすぐ、現世に送られますよ。」
感極まって、思わず叫びそうになった。嬉しくて嬉しくて、涙がドッとあふれ出る。両手で目を塞ぎ、震える声でヨルに言った。
「っ……ありがとう、ございますっ……。」
「……いえ……とんでもないですよ。」
ふわりとした物が手に当たる。ハンカチを手渡してくれたヨルに礼を言うと、涙を拭った。しばらくして涙が治まった頃、深刻な顔をするヨルが告げる。
「しかし……まだ問題があります。まだ遠ノ江さんは、完全な状態ではありません。」
「……この状態で生き返ったらまずいって、ことですか?」
それもあります、と続けるヨル。
「やはり生き返るのならば、彼ら……つまり永盛さんや保坂さんと同い年でないと問題がありますし、貴方の空白の12年間の記憶も、こうして我々天使や天界の話も、現世に下るとなると……それに……。」
彼は1層苦い顔をした。まだ告げなければならない重要なことがあるのだろう。
「……俺は、2人に会うためなら、どんなこともします。どんな試練でも乗り越えますから……どうか、会わせてください……!」
力強く覚悟を決め、ヨルに言った。彼は眉間にシワを寄せたまま、重たい口を開いた。
「貴方の身体や記憶は……どうにかなります。新しい身体は、もうなってますし……記憶も、作った物があります。」
「へっ?」
・・・・・
見ると、成長した体を纏っている。ゴツくなった手足、背も高くなった。顔や肩や様々な所を触ると、生長した変化に驚く。
「……俺は……何歳になったんだ?」
「28歳です。お2人と同じ歳ですよ。」
渡された鏡を見て更に驚く。骨格も変わり、心なしか声までも大人びている。ありえない未来の自分の姿に、驚き感動している。
「これが……俺……。」
「記憶に関しては、いわゆるパソコンにソフトをダウンロードするように、少々時間があれば簡単に出来るんです。しかし問題は……。」
目を伏せ、持っているバインダーを抱きしめるようにしてうつむいた。
「問題は……?」
「……生き返るのが問題なのではなく、生き返ってからが問題なんです。」
「……と、言うと?」
「……少し長くなってしまいますが……やむ得ないでしょう。」
ヨルは先程よりも低い声で、淡々と語り始めた。
「そもそも、貴方を生き返らせたのは理由があります。ある計画の為に、12年もの歳月をかけて実行され、成功しました。貴方は『receptacle project』に選ばれ、検体1号目にして成功した1人なのです。」
「り、りくぷて……?」
「まぁ簡単に言ったら、入れ物計画ってとこです。その入れるものというのが……いわゆる下界に住む悪魔……。」
『悪魔……天使もいれば悪魔もいるってことか……。』
突飛な話だが、理解はしているつもりだ。つまり俺は、現世にいる悪魔を入れる『入れ物』として、現世に舞い戻るという所だろう。彼の後ろにある映像が、より鮮明に悪魔達を脳に焼き付けていく。
「……現世には、終末が近づいています。それは、最悪とされる天使、いや……堕天使のルシファーが煉獄から逃亡し、サタンとなり下界を支配しました。着々と力をつけたサタンは……彼は、神を父故、愛故に憎み、神が愛した人間を抹消すると宣告しました……それが12年前なんです……。」
「ちょっと待ってください……12年前って、俺が死んだ時と同じ時期じゃないですか。」
「そうなんです。12年前、死ぬはずのない人間が大勢、何らかの理由で命を失いました。その1人が、貴方だったんです。そして、サタンはこう告げました。『死は始まりに過ぎない。憎むものには復讐を、欲望には血と肉を、生けるものには死を。汝らの魂は7つの罪に溺れ、終末を迎えるだろう。贄は7人、下僕は万人、汝らは自らにその身を滅ぼすであろう。』」
「7つの罪……贄……。」
膨大な情報が頭の中でぐるぐると回っているが、ひとつづつ紐解いていくと、俺でも分かることがある。
「……7つの大罪に、関係した問題ということ……?」
「!!」
今どきの高校生で良かったと思っている。アニメや漫画で出てくる、悪魔や神や天使のやんわりとした知識があってこその、この想像力と発想。俺が生き返っても天使を目の前にしても冷静でいられたのは、これのお陰かもしれない。
「っ……そう、なんですよ……どこまでも察しが良くて怖いくらいですよ本当……。」
「あはは……まぁ学生だったんでね……それはそうと、何故7つの大罪が問題なんですか?俺が現世に送られたとして、その中に入るのは、大罪の誰かということですか?結構簡単なんじゃ……。」
「彼らを甘く見てはいけませんっ!」
今まで落ち着いていたヨルが、珍しく声を荒らげた。7つの大罪とは、よっぽど強い悪魔らしい。
「っ……失礼しました。ですが、7つの大罪はご存知のとおり下界の中でも有数の権力者であり、その力は1人1人ならまだしも、7人全員となると天界の力でも抑えることは難しいのです。しかも問題なのは……彼ら大罪人が全員……現世にいることなんです……。」
「……だから俺を……そいつらが現世にいるから、何か悪いことを仕出かす前に俺を送り込んで止めようと……終末が訪れる前に。」
「えぇ……そのとおりです。」
正直言って、スケールが大きすぎて逆に危機感が伝わりにくい。しかしヨルの様子からみて、かなりの大事なのだろう。
「……でも、なんで俺なんですか?12年前に大勢亡くなってるんですよね?その中のなんで俺なんですか?」
「そ、れは……。」
ヨルは言葉を詰まらせた。何だか嫌な予感がしてならない。
「っ……その……大変申し上げにくいのですが……大罪のターゲットとしている人間、つまり贄となる人が日本に2人……それも、貴方の……よく知っている人なんです……。」
「……まさか……!」
悪い予感は的中してしまった。
「永盛さんと保坂さんが……大罪のターゲットなんです。」
「……。」
ショックだった。自分が適任な訳だ。でも、こんな風に言ってもらえるとは、俺は何てラッキーだったんだろう。
『慎也と忠を、救うことが出来る……!』
「やります!……2人には会いたいし、助けたい。俺に出来ることがあるなら、何でもします!」
「遠ノ江さんっ……!未来を変えられるか、五分五分といったところでしょうか……。」
「え……未来を、変える……?」
「はい。運命をねじ曲げるのです。本来なら自然の流れに任せなければならないのですが、サタンのせいでそれがかなわなくなりました。だから、ガブリエル様もこの危険な賭けに協力して下さったのです。」
「……未来で、俺らの世界……現世はどうなるんですか?」
知っておきたい。俺が成功するとは限らないが、もし俺が生き返らなかったら世界はどうなるのか。慎也と忠はどうなるのか。
まるで深い眠りから覚めたような気だるさと、また意識を取り戻したことへの驚き。
『俺は……死んだはずじゃ……。』
重たいまぶたを恐る恐る開けると、眩しい光が目に入る。1面真っ白に見えたその場所は、目が慣れてくると、どこか広い病院のような、しかし現実離れした部屋だった。
『どこだここは……病院……じゃないよな。』
寝台のような、それもまた真っ白な寝台。俺の着ている服も、椅子も、机も、ドアも。まだハッキリとしない重い頭を持ち上げるように、ゆっくりと身を起こした。
「ここ……どこ、だ……?」
声を発してみると、少し枯れていたもののしっかりと声は出せる。自分の手で、顔、首、胸、胴体、脚と順番に触り、自分がこの場に存在しているかを確認した。まだ自分が生きているか、死んでいるのかは分からないが、自分の意識を取り戻したことに、喜びと不安を感じる。
「目が覚める頃だと思いましたよ。遠ノ江友弥さん。」
声のする方角へ顔を向ける。ドアの方には人がいた。白衣のような真っ白な服にミルクのようなきめ細かい肌、吸い込まれそうなほど美しい金色の瞳、濡れ烏色の艶やかなショートカットの黒髪、天使を思わせる優しく包み込むような声色。見た目だけでは、男性か女性か分からないが、恐らく男性であろう。彼は俺の近くまでやって来る。見れば見るほど美男である。
「気分の方はどうですか?どこか具合の悪いところは?」
「あ、いえ……特には……。」
「……以外にも冷静で安心しました。普通なら、生き返ったら慌てるものなのですが……。」
「えっ……じゃあ、やっぱり……。」
その人はどんな女性も魅了してしまうような笑顔で、俺に笑いかけた。
「はい、貴方は生き返りました。まだ現世に復帰した訳ではありませんが、現時点では生き返ったことになります。」
現世という言葉に引っかかりを覚える。まるでファンタジーの世界のようだ。
「あの、色々と……聞きたいことがあるんですけど……。」
「あぁ、ご説明致しますね。」
彼はパチンッと指を鳴らした。すると、彼の背面に大きな画面のような物が映り出す。その映し出された画面には、分かりやすい絵と共にこう書いてある。
『天界……現世……下界……?』
「我々が現在居る場所はここです。天界へようこそ、遠ノ江さん。自己紹介が遅れましたね。私は大天使ガブリエル様に仕える天使の1人、ヨルと申します。」
「天使……。」
信じ難いことに、俺の目の前にいるのは本物の天使だった。普通なら信じない。しかし、何故か説得力がある。まず、俺が生き返ったことが奇跡なのだろう。立て続けに理解の追いつかないことが起こるが、何故か冷静でいられる。
「天使って、あの聖書とかに出てくる……あれ、ですか?」
「はい、あれです。ご理解の早い方で、安心しましたよ。さて……本題へと移りますが、よろしいですか?何故、貴方は生き返ったのか、ここにいるのか、何年の時が経ったのか。」
「えっ!?そんなに時間が経ってるんですか!?」
初めてヨルは、顔を歪めた。申し訳なさそうにうつむき、口を開いた。
「はい……貴方が亡くなってから、もう12年もの時が流れています。」
「12年も……。」
自分の感覚では、1晩寝たような感覚だった。そんなにも長い年月が過ぎているとは、思いもしなかった。その割には、俺の姿形は死んだ時のまま、学生のままなのだ。まっ先に思いついたのは、俺を最後まで見守ってくれたあいつらのことだった。
「あの2人は!慎也と、忠は!無事やってるのか!?生きてるよな!?」
俺は声を張り上げた。ヨルは、少し驚いた顔をするとまた指を鳴らした。
「お、お2人は元気ですよ。貴方の願いどおり、学校の教員として。」
「っ……そっか……よかったぁ……。」
2人の成長した映像を見る。2人の元気そうな姿にホッと胸を撫で下ろすと、ヨルがフフッと笑う。
「……自分より友情。己の身より、友の身。やはり貴方は、美しく強く、優しい魂の持ち主ですね。」
「え……。」
「彼らは貴方の母校の教師として、日々奮闘していますよ。永盛慎也さんに至っては、留年してまで。お2人共、貴方の為に必死になって教師を目指していたんですよ。今日ちょうど、永盛さんの初出勤です。」
「っ……はは……相変わらず、ハンパねぇ寝ぐせしやがって……。」
胸の奥がキュッと締まる。12年ぶりの友達の顔を見て、目頭が熱くなる。その高ぶった感情は、涙となって服にこぼれた。
「……いいなぁ……。」
思わず口に出したのは、死ぬ前から俺の願望だった教師になるという夢を叶えた2人を見て思ったこと。そう思うと少し辛かった。俺はもうあの2人と並ぶことも、話すことも、触れることも出来ないのだと思うと。しかし、ヨルの一言に俺は興奮する。
「もう1度、あの2人に会いたいですか?」
「……え?」
「貴方を生き返らせたのは、現世に送るためですよ。」
「……じ、じゃあ……俺は……!」
「……はい。もうすぐ、現世に送られますよ。」
感極まって、思わず叫びそうになった。嬉しくて嬉しくて、涙がドッとあふれ出る。両手で目を塞ぎ、震える声でヨルに言った。
「っ……ありがとう、ございますっ……。」
「……いえ……とんでもないですよ。」
ふわりとした物が手に当たる。ハンカチを手渡してくれたヨルに礼を言うと、涙を拭った。しばらくして涙が治まった頃、深刻な顔をするヨルが告げる。
「しかし……まだ問題があります。まだ遠ノ江さんは、完全な状態ではありません。」
「……この状態で生き返ったらまずいって、ことですか?」
それもあります、と続けるヨル。
「やはり生き返るのならば、彼ら……つまり永盛さんや保坂さんと同い年でないと問題がありますし、貴方の空白の12年間の記憶も、こうして我々天使や天界の話も、現世に下るとなると……それに……。」
彼は1層苦い顔をした。まだ告げなければならない重要なことがあるのだろう。
「……俺は、2人に会うためなら、どんなこともします。どんな試練でも乗り越えますから……どうか、会わせてください……!」
力強く覚悟を決め、ヨルに言った。彼は眉間にシワを寄せたまま、重たい口を開いた。
「貴方の身体や記憶は……どうにかなります。新しい身体は、もうなってますし……記憶も、作った物があります。」
「へっ?」
・・・・・
見ると、成長した体を纏っている。ゴツくなった手足、背も高くなった。顔や肩や様々な所を触ると、生長した変化に驚く。
「……俺は……何歳になったんだ?」
「28歳です。お2人と同じ歳ですよ。」
渡された鏡を見て更に驚く。骨格も変わり、心なしか声までも大人びている。ありえない未来の自分の姿に、驚き感動している。
「これが……俺……。」
「記憶に関しては、いわゆるパソコンにソフトをダウンロードするように、少々時間があれば簡単に出来るんです。しかし問題は……。」
目を伏せ、持っているバインダーを抱きしめるようにしてうつむいた。
「問題は……?」
「……生き返るのが問題なのではなく、生き返ってからが問題なんです。」
「……と、言うと?」
「……少し長くなってしまいますが……やむ得ないでしょう。」
ヨルは先程よりも低い声で、淡々と語り始めた。
「そもそも、貴方を生き返らせたのは理由があります。ある計画の為に、12年もの歳月をかけて実行され、成功しました。貴方は『receptacle project』に選ばれ、検体1号目にして成功した1人なのです。」
「り、りくぷて……?」
「まぁ簡単に言ったら、入れ物計画ってとこです。その入れるものというのが……いわゆる下界に住む悪魔……。」
『悪魔……天使もいれば悪魔もいるってことか……。』
突飛な話だが、理解はしているつもりだ。つまり俺は、現世にいる悪魔を入れる『入れ物』として、現世に舞い戻るという所だろう。彼の後ろにある映像が、より鮮明に悪魔達を脳に焼き付けていく。
「……現世には、終末が近づいています。それは、最悪とされる天使、いや……堕天使のルシファーが煉獄から逃亡し、サタンとなり下界を支配しました。着々と力をつけたサタンは……彼は、神を父故、愛故に憎み、神が愛した人間を抹消すると宣告しました……それが12年前なんです……。」
「ちょっと待ってください……12年前って、俺が死んだ時と同じ時期じゃないですか。」
「そうなんです。12年前、死ぬはずのない人間が大勢、何らかの理由で命を失いました。その1人が、貴方だったんです。そして、サタンはこう告げました。『死は始まりに過ぎない。憎むものには復讐を、欲望には血と肉を、生けるものには死を。汝らの魂は7つの罪に溺れ、終末を迎えるだろう。贄は7人、下僕は万人、汝らは自らにその身を滅ぼすであろう。』」
「7つの罪……贄……。」
膨大な情報が頭の中でぐるぐると回っているが、ひとつづつ紐解いていくと、俺でも分かることがある。
「……7つの大罪に、関係した問題ということ……?」
「!!」
今どきの高校生で良かったと思っている。アニメや漫画で出てくる、悪魔や神や天使のやんわりとした知識があってこその、この想像力と発想。俺が生き返っても天使を目の前にしても冷静でいられたのは、これのお陰かもしれない。
「っ……そう、なんですよ……どこまでも察しが良くて怖いくらいですよ本当……。」
「あはは……まぁ学生だったんでね……それはそうと、何故7つの大罪が問題なんですか?俺が現世に送られたとして、その中に入るのは、大罪の誰かということですか?結構簡単なんじゃ……。」
「彼らを甘く見てはいけませんっ!」
今まで落ち着いていたヨルが、珍しく声を荒らげた。7つの大罪とは、よっぽど強い悪魔らしい。
「っ……失礼しました。ですが、7つの大罪はご存知のとおり下界の中でも有数の権力者であり、その力は1人1人ならまだしも、7人全員となると天界の力でも抑えることは難しいのです。しかも問題なのは……彼ら大罪人が全員……現世にいることなんです……。」
「……だから俺を……そいつらが現世にいるから、何か悪いことを仕出かす前に俺を送り込んで止めようと……終末が訪れる前に。」
「えぇ……そのとおりです。」
正直言って、スケールが大きすぎて逆に危機感が伝わりにくい。しかしヨルの様子からみて、かなりの大事なのだろう。
「……でも、なんで俺なんですか?12年前に大勢亡くなってるんですよね?その中のなんで俺なんですか?」
「そ、れは……。」
ヨルは言葉を詰まらせた。何だか嫌な予感がしてならない。
「っ……その……大変申し上げにくいのですが……大罪のターゲットとしている人間、つまり贄となる人が日本に2人……それも、貴方の……よく知っている人なんです……。」
「……まさか……!」
悪い予感は的中してしまった。
「永盛さんと保坂さんが……大罪のターゲットなんです。」
「……。」
ショックだった。自分が適任な訳だ。でも、こんな風に言ってもらえるとは、俺は何てラッキーだったんだろう。
『慎也と忠を、救うことが出来る……!』
「やります!……2人には会いたいし、助けたい。俺に出来ることがあるなら、何でもします!」
「遠ノ江さんっ……!未来を変えられるか、五分五分といったところでしょうか……。」
「え……未来を、変える……?」
「はい。運命をねじ曲げるのです。本来なら自然の流れに任せなければならないのですが、サタンのせいでそれがかなわなくなりました。だから、ガブリエル様もこの危険な賭けに協力して下さったのです。」
「……未来で、俺らの世界……現世はどうなるんですか?」
知っておきたい。俺が成功するとは限らないが、もし俺が生き返らなかったら世界はどうなるのか。慎也と忠はどうなるのか。