『はぁーめんどくさいな』
僕は制服がカッコイイからという不純な動機で地元では有名な進学校の進城(しんじょう)高校を記念受験した。
まぐれで合格したまでは良かったが入学早々その勉強レベルの高さに苦戦していた。
今日も数学の教科書を忘れた事に家に着いてから気付き、面倒なので取りに行くか迷ったが苦手科目ということもあり渋々学校に戻ってきた。
階段を上り3階の1年C組の教室の前まで来た所で中から女の子の声が聞こえてきた。
『一目見た時から好きでした』
中を覗いて見るとそこには同じクラスの海道連(かいどうれん)と怨嗟否神(えんさひがみ)がいた。
海道連の方はクラスで1、2を争うイケメンで入学早々目立っていた。
一方の怨嗟否神の方も目立ってはいないもののなかなかの美人だ。
『うわーいいな』
僕は一瞬羨ましく思ったがすぐにその気持ちは消えた。
『…ごめん、俺中学の時からお前の姉ちゃんが好きなんだ』
『気持ちは嬉しいけど本当にごめん』
そう言って海道は早々と教室を出た。
そこで廊下にいる自分と目があった。
『いやー家に教科書忘れちゃって最悪だよ』
僕は面倒なので何も見てないフリをした。
『おお、そっかドンマイ』
そう言って海道は去って行った。
フラれたばかりの怨嗟に会うのは多少気まずいが廊下での話声も聞こえただろうしと教科書を取るためにそっとドアを開けようとした。
『うわぁぁぁぁぁん』
横開きのドアが少し開いた所で僕はその声に驚き手をドアから離した。
『ぐぁぁぁぁぁあ』
『あぁぁぁぁぁず』
どうやら怨嗟はフラれたショックで泣きじゃくって廊下の自分に気づいていないようだ。
『参ったな』
僕は少し落ち着いてから中に入ろうと決めたがその判断を後に後悔する事になる。
『ぐすっぐすっ』
『……』
今度こそはと思い再びドアに手をかけた。まさにその時だった。
『ちぐじょょょょう』
『あのクソあねぎぃぃぃ』
『いづもいづも…ぶちごろずぞ』
泣いていたさっきとは一変して鬼のような形相で怨嗟は怒り狂っていた。
僕の決意は空しくあまりの衝撃に再びドアの手を離した。
教室の怨嗟を見るとバックから何やら物を取り出した。
ワラ人形とトンカチ、そして廊下からでもよく見える程の大量の釘だ。
『おばえなんか、ごうだ、ごうだ、ごうだ』
バン、ガン、ドン。
休みなく釘を打つ音が聞こえる。
ヤバイな、そう思い僕が教科書を諦めてそこから去ろうとした時だった。
『そこにいるのは誰?』
休みなく続いていた釘の音が止んだ。
さっきまで鬼の様な形相をしていた怨嗟が冷めた表情でドアの所にいる僕を見ている。
『確か綿貫(わたぬき)君だよね?』
僕は頭が真っ白になった。