廊下で1人になった俺はため息を漏らして部屋に戻る。 すぐに部屋着に着替えてリビングに向かうとニヤニヤとしているお母さんと目が合う。

怪訝そうに見つめると隣に座った俺の耳元で「モテモテな澪ちゃん」とハートマークがつきそうなほど甘い声を出すお母さんに鳥肌がたつ。

睨みつけるとお母さんはてへ、と舌を出し新田夫婦と話を進めている。

なんだよ、と思い目の前にあるケーキを食べようとフォークを掴むと目の前に座っている新田娘と目が合った。



「……なに」



俺がそう言っても新田娘は何も言わずに緊張した面影で俺を見つめる。

もう一度なに、と言おうと思ったがお母さんがそれに被せてきた。



「そのケーキ莉衣(りい)ちゃんが作ったのよ」

「……リイちゃん?」

「あれ? 貴方達自己紹介まだだったの?」



そう言われてそういえばと思い出す。 新田娘は俺のこと知ってたからもう済んだ物だと思っていた。

まあ、衝撃的な出会いだったから仕方ないだろう。



「新田 莉衣子(にった りいこ)ですっ! よろしくお願いします!」

「……福久 澪」

「知ってます! 大好きです!」



こいつはお互いの家族がいる前でなにを言ってるんだ。

新田父が鬼の形相で俺のことを見ているし、新田母は「あらまあ」と頬を赤く染めてるし。 俺はどうすればいいんだ。