「あ、いや、何でもないです、すいません!」

そう言って男の子は歩いていった。

「ちょっと待って!」


私は咄嗟に男の子を引き止めていた。
その子は誤解してる。

「私、誠也さんと付き合ったりしてないからね」

私はただそれだけを伝えた。
そんな誤解されたら誠也にも迷惑だし。


でも、少し嬉しかった。

傍から見たら私と誠也さんは付き合ってるように見えてるんだ。


あ、違うかも。
その子だけにそう見えてたのかもしれない。

自惚れんなよ自分。



顔が熱いのが自分でも分かった。

熱が上がる一方でも私の心臓は音を立てる事はなかった。
自分の感情がわからない。



外を歩くとコンビニがあった。

誠也さんがいなかったら行けたコンビニ。
あの日、誠也さんの一部を知れた気がした。

親しくなった訳でもなく、むしろ誠也さんに嫌われたはずなのにあの日があってよかったと私は思っていた。


「おい」

甘美な声が私の耳を捉えた。
振り返ると私の目には人が写った。


それは私の憧れの人だった。

「なにしてんだよ」


甘美な声はやっぱり私を捉えて離すことをしない。
体が動かない。

あぁ。私はこの人が好きなのかもしれない。