「……考え事してたの」


苦し紛れにそう言うと、ごまかしだとばれてしまったようで、


「へえ、どんな?」


と青磁が眉をあげてにやりと笑った。


ぱっと前を向いて、膝をきつく抱いたまま、必死に考えを巡らせる。

いくらごまかしがばれてしまったとはいえ、素直に『はい、見惚れてました』なんて言えるわけがない。


なにかこの気まずい空気を変える話題が欲しくて、反対側の河川敷を見ていたら、

向こうのほうにぽつんと置かれた古いサッカーゴールと、その脇に立つ今は花も葉もない桜の木が目に入った。


「あっ、あれ、まだあるんだ……懐かしいなあ。桜の木も」


私が思わず声をあげると、青磁は「あ?」と首を傾けて対岸に目を向けた。


「ああ……あれか」

「知ってるの?」

「まあな」


そう言ってゴールを見つめる青磁の瞳に、懐かしげな色が浮かんでいる気がして、そういえば、と一学期のことを思い出した。


「青磁って、サッカーやってたの?」


訊ねると、彼は目を丸くして私を見た。


「は? なんで、知ってんの」

「いや、知ってたわけじゃなくて。体育のときサッカーしてるの見て、うまかったから。経験者かなって思ったの、今思い出して」

「ああ……そういうこと」


納得したように頷いて、青磁がまたゴールのほうを見た。


「まあ、ガキのころ、ちょっとやってたんだよ。今は全然だけど」

「やっぱり。私、自分はサッカーやったことないけど、お兄ちゃんが昔やっててね、何回か練習とか試合とか観に行ったことあるから、プレー見てたらなんとなく分かるんだ」