「思いっきり食ったほうがうまいのに」

「……うん」


分かっていても、やっぱり外でマスクを外すことには、服を脱いで裸になるのと同じような羞恥と落ち着かなさを感じてしまうのだ。


「まあ、そんなに嫌なら仕方ねえか」

「……うん」


マスクをしたまま食べるのは、自分でも不愉快さしか感じない。

おいしいものも、おいしく感じられなくなる。


それでも、素顔をさらけ出すことには代えられなかった。


食べ終わると、青磁はまた横になり、芝生に背中をつけて空を見上げる。

私は膝を抱えて川の水面を見つめる。


静かで穏やかな時が流れていく。


目を閉じて耳を澄ますと、水が流れる微かな音と、動き始めた街で暮らす人々の生活音が聞こえた。


とても満ち足りた、幸せな時間。

青磁といる時間は、すごく心地がいい。


こうやって、いつまでも、一緒に空を見ていたい。


ちらりと視線を落とすと、青磁は気持ち良さそうに目を閉じていた。

微風に揺れる真っ白な髪は、朝の光を受けて銀色に輝いている。

綺麗だな、と思った。


髪だけじゃなくて、輪郭も、肌も、表情も。


じっと見つめていたら、薄い唇がふいに笑みの形を作った。

かと思うと、長い睫毛がゆっくりと上がり、


「……なに見惚れてんだよ」


とからかうように言われた。


心臓が跳ねて、顔に血が昇る。


「べつに、たまたま見てただけだし」

「へえ、そうか? それにしては、動きが止まってたけど」


どうやら彼は、目を閉じて眠っていると見せかけて、薄目を開けていたらしい。