「ひかりちゃんこそ仕事はどうしたの?」

「休みました」

「大丈夫なの?」

「今は仕事がそんなに忙しくない時期なので」

本当は案件を抱えているが、そんなことを言うとお父さんは心配するだろうと思い、とっさに嘘をつく。

「仕事休んでまで来なくてもいいんだよ。休みの日に来てくれたら十分嬉しいんだから」

「いいんです。朝日のことよりも大切なものなんてありませんから…」

私は雲ひとつない青空を見上げる。
沈黙が私たちの間を流れた。

「…ひかりちゃん、ずっと言おうと思っていたことがあるんだが」

お父さんは低めの声そう言い、神妙な面持ちで私を見る。

「はい」

「朝日のこと、忘れてくれていいんだよ」

お父さんの思いがけない言葉に、私は一瞬何を言われたのか理解出来なかった。

「え…?」

朝日のことを、忘れる…?

「朝日はもう、この世にはいない。居なくなってからもう1年4ヶ月が経った。しかし君はこうして生きている。君には朝日を忘れて、きちんと前を向いてほしいんだ。だから他の人と結婚をして、子供を産んで、幸せになってほしい」

「……」

お父さんは私のことを思ってそう言ってくれているのだろう。
そんなことは分かっている。

「…でき、ません」

私には彼を忘れて、他の誰かと結婚をして子供を産んでいる未来なんて想像が出来なかった。
彼はもうやりたかったことも何もできないのに、私だけが彼を忘れて幸せになるだなんて…。

「このままだと君は、死んだ朝日に囚われたまま生きていき、いつかきっと命を絶ってしまう。君はまだ若いんだ、いくらだってやり直せる。君には…私の妻のようになってほしくないんだ」

お父さんはお墓のほうを向き、眉間にしわを寄せ苦しそうな表情をする。