この出来事のあと、会社で会う彼女はいつも通り笑っていた。
俺の胸で泣いていたあの夜が嘘のように、彼女は元気な様子だった。

週明けの月曜日に出社したときに、いつもと変わらない彼女の姿を見て、あの夜のことは俺の妄想だったんじゃないかと思い悩んだほどだ。

しかし妄想じゃないと思えたのは、彼女が俺に任せる仕事を増やしてくれたことだった。
以前は彼女が一人で抱えていた案件を、俺に手伝ってほしいと頼んできてくれた。

"もっと頼ってください"

そんな俺の気持ちは、きちんと彼女に伝わっていたと確信できた瞬間だった。
恋心のほうは伝わっていないみたいだけどね。

でも彼女と少し距離が縮まったような気がするのは本当だ。
そう自惚れてもいいよな?

「三笠くん」

白のブラウスにカーキ色の膝下スカートをはいた彼女が、プリントの束を片手に持ち俺のほうへ向かって歩いてくる。

「この広告のデザインなんだけれど、少しシンプルすぎるかしら?」

前みたいに文字の誤植を直すだけのような仕事ではなく、俺にアドバイスを求めるようなそんな尋ねかたをしてくる。
彼女の役にたてていると感じられて、俺も嬉しくなり力が入った。

「もう少し明るい色味にした方が良いかもしれませんね」

「やっぱりそうよね。もう一度作り直してみるわ。ありがとう」

彼女にありがとうと言われると照れ臭くなる。
俺は彼女の笑顔に顔を赤らめた。

「お前さ」

彼女が自分の席へと戻ると同時に、隣の席の飯沼が話しかけてくる。