「何か言ったか」

その声に背中がぞくっと震える。
おそるおそる振り向くと、後ろには亘さんが腕組して立っていた。

180センチくらいの長身で黒髪。
面持ちは怖い印象を受けるが、大人の色気を醸し出していて、影の女性ファンはたくさんいるらしい。
相変わらずピシッとスーツを着こなしている。


飯沼とは正反対とも思える、完璧主義者だ。

「わっ…亘さん!何にも言ってませんっ」

飯沼は笑顔で誤魔化そうとしているが、完全に口元がひきつっている。

完全に顔に出てるぞ…
嘘がつけない、正直な奴だ。

「ほう…そうか。飯沼、この資料また誤字があったぞ。自分で探して直しておけ。また怒られたいのか」

「す、すみません…」

うわ、怖い…
藤堂さんとの対応の差があからさまだ。

「それと三笠」

突然俺のほうへ飛び火をしてきたので、身体がびくっと反応してしまう。

「は、はいっ!」

「今週金曜日の新入社員歓迎会の出欠が出てないぞ。締め切りは昨日のはずだが」

うわやば、締め切り昨日までか忘れてた!
しかも幹事は亘さんじゃん!

「す、すみません!出席させていただきますっ!」

「締め切りは守るように。いつまで経っても学生気分でいられたら困るな」

「はい…」

まさか俺まで怒られるとは思っていなかったので、しゅんとなる。

「飯沼、資料直したらすぐ提出しに来いよ」

亘さんはそう言い残し、自分のデスクのほうへ帰っていく。