クラスの奴らもみんなポカンとしている。
笑っているのは翔ただ一人だった。
それからというもの、今まで以上に話しかけてくるようになった。
僕も半ば諦めて、適当に答えるようになっていた。
そして少しずつだけど心を開いていっていた。
そこから仲良くなるのは早かったように感じた。
いつの間にか家にまで行くようになっていた。
そこで、翔の友達の空、春、友ともあった。
前の学校の友達らしい。
そいつらとも仲良くなり、5人でよく遊ぶようになった。
そんなある日、僕は翔に呼ばれて家まで行った。
家の中には翔と春と友しかいなかった。
薫「アレ?空は?てか、いきなりどうしたんだよ。」
3人は険しい顔をしている。
春「お前さ、空に何した?」
薫「え?空に何かあったの?」
友「とぼけんじゃねーよ。空がボロボロの状態で倒れてたんだよ。その後部屋から出てこなくなった。
お前がやったんだろ。」
薫「俺なんもやってねぇーよ?」
春「嘘つくなよ。空がおまえの名前言ったんだよ。友達ボコるとか最低だな。」
え?こいつらは何言ってんだ?
薫「ほんとにやってねーんだよ。
翔、信じてくれるよな?」
俺は翔に助けを求めた。
だが、あいつは俺を見捨てた。
翔「はぁ?お前裏切ったんだろ?
もう俺らの仲間じゃない。家にももうくんな。」
なんだよそれ。俺は本当にやってないのに。
その後、風の噂で春と友が空をボコって空を脅し僕を陥れたと聞いた。
あの二人は俺のことを紹介された時から、気に入らなかったらしい。
そして、たまたま空とも折り合いがあっていなかったのでどっちも潰したと言うことらしい。
そして、悟った。
あぁ、そうか。僕は結局ひとりなんだ。
なんで人なんて信じたんだろう。
もう誰も信じない。僕は一人で生きていく。
そこから、僕の生活は喧嘩中心になっていった。
繁華街に行っては、喧嘩を売られ、相手をぼこぼこにして。
それをただただ繰り返していた。
面白くもなく、ただイラつきを発散するためだけに…。
そんなことをしていたらいつの間にかその繁華街で僕に勝てるやつはいなくなっていた。
その時呼ばれていた名は『無の悪魔』。
まあ僕はそんな事どうでもいいくらい暴れてたから知らなかったけどね。
そしてある日、僕は関西から来たという男と戦った。
けど、結果は惨敗だった。
「お前本当にあの『無の悪魔』かよ。弱すぎだろ。」
そう言われながら、ずっと殴られ続けていた。
なんとなくだけど、僕はここで死ぬのかとも思った。
ドスッ
その時鈍い音とともに現れたのは、見たことないくらい綺麗な顔の男だった。
そいつがこっちへ向かってきた。
薫「なっなんだよ。」
「お前さ何のために戦ってんの?」
薫「そんなのお前に関係ないだろ。」
「確かに俺には関係ねぇーな。
ただ、目的もなく戦い続けても虚しいだけだぞ。折角だったら、誰かを守るために戦えよ。
お前にもそういう仲間が出来るといいな。」
そう言って、その場を立ち去った。
僕はその時動くことが出来ずにそいつの後ろ姿を眺めていた。
そこまで話して薫は一息ついた。
薫「その時助けてくれたのが魁だったんだ。その日から、魁に言われた言葉が頭から離れなくなってて、気づいたら魁を探してた。
それで見つけたのが龍王だった。
みんなはこんな僕を受け入れてくれた。
確かに最初は信じてなかったけど、魁が言ったような誰かを守れるやつになりたかった。そして、ちゃんと信じることが出来るようになったんだ。
僕に仲間ができたのは魁のおかげなんだよ。」
そう言った薫の顔は、今までの暗いものとは違って晴れやかなものだった。
「そうだったんだ。良かったね。」
薫の顔を見ていたら自然とその言葉が出てきた。
薫「えっ?良かった?」
「あっ、ごめん、気に触っちゃったかな?
確かに、良かったなんて変だよね。」
薫「ううん。変なんかじゃないよ。
てっきり同情されると思ってたからびっくりしたんだ。でもどうして?」
「薫の顔がすごい嬉しそうで晴れやかだったから、よかったっと思ってるのが伝わってきたの。
それに薫が良かったって思ってるのに『かわいそう』とか『辛かったね』は違うなと思って。」
薫の顔にホッとしたような笑顔が浮かんだ。
薫「雪ちゃんはやっぱりほかの人と違うね。全部話して良かった。聞いてくれてありがとう。避けたりしてごめんね。」
「うん。これからもよろしくね?」
薫「こちらこそ。雪ちゃん大好き!!」
そう言って、薫が私に抱きついた。
「うわぁ!!いきなりどうしたの?」
薫「えへへ。大好きって思ったら抱きつきたくなっちゃったの。」
やばい天使だ!!
「薫可愛すぎ!!弟にほしー!!」
薫「…弟?」
薫の顔が曇った。
「…え、ダメだった?」
薫「…いや。何でもない。
今は弟でもいいよ。これから分からせてあげるから。」
薫は黒い笑みを浮かべた。
薫「さっ、勉強始めようか。」
「え、うん。
お願いします。」
なんか変なスイッチ押しちゃったかな?
次の日…
眠い目を擦りながら下へ降りていくと既にみんなが起きていた。
「みんな、おはよー。」
薫「あっ!雪ちゃんだ、おはよー!!」
ギュッ
真っ先に薫が反応して抱きついてきた。
「わっ!薫は朝から元気だね。」
薫にそう言って、周りを見てみると他のみんなが目を見開いてこっちを見ていた。
真「薫が人に抱きついてる…!」
えっ、なになに!これってすごい事なの?
秋「お前どうやって薫を手なずけたんだよ。
」
「手なずけたって言い方悪くない?
私はただ薫と話しただけなのに。」
真「まあとにかく雪音ちゃんと薫が仲良くなって良かったんじゃない。とりあえず朝ごはん食べようか。」
薫「うん!僕お腹ぺこぺこだよー。
雪ちゃんは僕の隣ね!」
薫すごいかわったなー…。
前より心許してくれてるみたいで嬉しいんだけどね。
魁「ベタベタしすぎだ。
雪音はこっち来い。」
「あっ、うん。」
薫「ぶーぶー。魁だけずるいよー!!」
魁「薫黙れ。」
その一言で薫は黙った。
なんでって?だってめっちゃ怖かったもん。
殺気?っていうのがこもってた。
そして席につく。
すると魁翔が寄ってきた。
魁「薫と仲戻って良かったな。」
そう言った魁翔の顔には少しの笑があった。
心から言ってくれてるような優しい笑だった。
最近気づいたことなんだけど、私は魁翔の笑顔をもっと見たいって思ってるらしい。
ただ、なんでそんなこと思ってるのかは分からないんだけど。
遼「雪音ちゃん、ご飯食べよ。」
「うん!」
今考えても答えは出ないしご飯食べよ。
真「あ、そうだ。今日なんだけどさ、学校休みだしみんなに雪音ちゃんのお披露目することになったから。」
「お披露目?」
魁「ああ、簡単に言うと雪音の紹介だな。」
「あ、なるほど。ここでお世話になってるけどちゃんと挨拶したことないもんね。」
秋「そうだな。って言っても、知ってるやつは沢山いるだろうけどなー(笑)」
真「出入りしてるし知ってるだろうね。だからこそやるんだけどね。」
「ん?どういうこと?」
真「今から説明するね。これは雪音ちゃんの身に関わる話だからちゃんと聞いてほしい。」
真琴の空気が張り詰めたものに変わった。
真「他の族にゆきねちゃんの存在が知られたんだ。」
「それのどこが重要なの?」
薫「えっとねー。龍王は世界でNo.2の族なのね。だから、周りは僕達を潰したいんだよ。そこに、守られる存在の姫が現れたから狙われるってわけ。」
「姫ってそんな重要な存在なの?」
真「姫はね、総長の女って意味なんだよ。
そして総長の女は族の守るべき人。
姫はその族の強味にも弱味にもなるんだ。」
「えっ、でも私魁翔の女じゃないよ?」
秋「そうだとしても他の族にとってはどうでもいいんだよ。大切なのは龍王が大切にしてるかしてないかだからな。しかも、魁翔は今まで近くに女を置いたことすらなかったからな。」
私は珍しいってことか。
良いことなんだか悪いことなんだか。
真「分かってくれたかな?
これから狙われることが多くなると思う。だから、龍王のみんなにちゃんと知らせておきたいんだ。」
「何それ…。」
私の不安を読み取ったのか、魁翔が手を握ってきた。
魁「大丈夫だ。俺達が絶対守ってやるから。」
そうだよね。魁翔達を信じよう。
「うん、分かった。」