「桃香」


永井様が呼ぶと

廊下で柱にもたれて目を閉じていた彩華が

うっすら目を開き、庭を見る



永井様は、ニコニコしながら

彩華の視線を遮るように

前に立つ



「桃!」


「……思い出したの?」


「当たり前だ!俺が妹を忘れるはずない!」



いや、忘れていたでしょ…

記憶が戻ったのは、彩華が弱ったからだな




「いつも何見てるんだ?
江戸の家でも庭を見てたそうだな
父上と母上が言ってた」


「お二人…お元気?」


「桃から文が来ないからさみしがってる」


「ごめん」



彩華が再び視線を庭へ


「あそこの小石が私の家で…
あっちが一の家… あれが平助の家…
大きな石が山でね…
あの木に3人で登ったの
そこの野原でかけっこしたの
チャンバラもしたんだよ」


庭を見ると

彩華の言うように

思い出の村そのものだった



彩華が微笑み目を閉じた





「本当…… 
一君と平助君のことばかりだな」





永井様が彩華に手を伸ばす


拒否するかもって、とめようかと思ったが


彩華に意識は無かった