「えっ、ちょっと!?」
ふわっと体が浮く感覚。
堪らず足をバタバタさせた。
「暴れると落とすよ?」
「落としていい…!落としていいから…!!」
「俺が落とすわけないじゃん、いいから暴れんなよ」
「いや、全然よくないから…!!」
至近距離で目が合った。
充がたまに見せる、強引な顔。
って、何ときめいてるの私!!
混乱しているうちにベッドの上に下ろされた。
すぐに充の影が私を覆った。
全神経が、彼に向かう。
さっきまであんなに暴れていたのに、金縛りにあったかのように動けない。
「み、つる…?」
男らしい肩幅に、言い様のない不安が指先で震えた。
本能的に怖いと思ったけれど、暗闇に見えたのは、不安に揺れる瞳だった。
「万智……ごめんな」
「え…?」
「こんな彼氏で」
「何言ってんの、私の彼氏をこんな呼ばわりしないでよ」
「だって、俺……」
気にしているんだろう、私以外の女の子と触れ合うことを。
充も私以外は絶対に好きにはならない、私も、充以外なんてあり得ない。
生まれた時からずっと一緒の私たち、お互いの気持ちは言わなくても、ほとんど分かる。
……でも、不安な気持ちはどうしようもない。
「ねぇ、充」
「ん?」
「私が嫉妬するくらい、そのモデルとイチャイチャして見せてよ」
「は…?」
何言ってんだコイツとばかりに、まんまるの目。
「充、中途半端なことするつもり?」
「っ……」
「……プロなら、とことんやらなきゃ。
俳優やりたかったんでしょ?次の仕事に繋げるためにも、躊躇したらダメだよ。
その人と恋人やってる時は、私のことは忘れて?」
「……そう、だよな」
「充ならできるよ」
「ありがと……万智はいっつも俺に答えをくれるよな」
少しだけ力の抜けた笑顔を見つめる。
たぶん、私が何を言っても充は、『自分はダメな彼氏だ』って言う。
馬鹿だよね。
一緒にいられるだけで幸せなのに。
どうしてこの気持ちは伝わらないんだろう。
歳を重ねるごとに、複雑な感情だけが増えて、お互いのことが少しずつ分からなくなる。
…大人になるって、こういうことなのかな?