「よっ、と」
窓枠に飛び乗ってから、部屋に入ってきた。
手馴れた風に靴を脱ぐ。
「……充、ちゃんと食べてる?」
「ん?食ってるけど」
「なんか、顔色悪くない?」
「ハハッ、大丈夫だって、相変わらず万智は母さんみたいだな」
「お母さんじゃな…」
詰め寄ろうと近づいた瞬間、いきなり抱きしめられた。
ひさしぶりの温もりに、意味もなく鼓動が高なる。
充は何も言わない。
ただ、だんだん抱きしめる力が強くなる。
不安なんだろうな。
私も、一緒だよ、充。
応えるように、抱きしめ返した。
「万智……会いたかった」
「…私も、会いたかった」
充の声は、震えていた。
テレビや、ファンの前では絶対に見せない、弱気な伊東 充。
「キスしていいか?」
「そういうの聞か…んっ」
またも言い終わらないうちに、少々強引に唇が重なった。
長い長いキスに、息が苦しくなって、充の胸をトントン叩いた。
素直に離れられて、ちょっと、不満。
「……万智、他の男の前で絶対そういう顔すんなよ?」
「ん?なんで?」
「なんでって…万智が物欲しそうな顔するからじゃん」
「はっ??しししてないし!!?」
バカ充のせいで、絶対私いま真っ赤。
電気消えててよかった……
「いやしてたな」
「もう!してないって!!!」
「しっ、あんま大っきい声出すと下に聞こえるぞ?」
「もうっ、充のバカ…!バカバカ…!!」
どうしたらいいのか分からなくなって、彼の胸をドンドン叩いた。
「ハハッ、ごめん、ついイジメたくなっちゃった……許して?」
「もう、絶対許さない…!!」
「…じゃあ、許してもらうまでイジメようかな」
「へ?」
囁くように低くなった声に、思わず顔を上げると。
薄暗い部屋に、妖しげで艷やかな表情が浮かび上がった。
ゾクッとした。
その一瞬の隙をつかれて、
「きゃあ!」
世に言う…お姫様抱っこをされた。