『…俺も、万智以外と手繋ぐとか……ぶっちゃけやりたくない』
「っ……」
『でも、この仕事を蹴ったら、俺の仕事は絶対に狭まる』
今までの疲れ声が、吹っ飛んだ。
その声は、決意に満ちていた。
『だから……万智、外を見て』
「え?」
『いいから、早く』
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!」
慌ててカーテンを開けた。
まさか、でもそんなはず……
「っ……なんで」
『ごめん、我慢できなくなった』
家の庭、私の部屋のすぐ横にある木の上で、嬉しそうに笑う彼を見つけた。
スマホを耳に当てたまま固まってしまう。
『早く窓開けてよ』
呆けてしまった私は、彼の笑い声で現実に引き戻された。
「あ、ごめん!」
電気を消して、窓を開けた。
月明かりの下で光る彼は、息を飲むほど綺麗だった。
鼻梁の整った鼻。
絶妙な厚さの唇。
手入れの行き届いた綺麗な肌。
艷やかなダークブラウンの髪。
暗闇でも光る、力強い瞳。
でも、彼を包む雰囲気は、16歳の少年のものではない。
そこに、いつも寂しさを感じる。
「万智を驚かせるために、俺めっちゃ我慢したから、ね、褒めて」
充は、得意げにニッと口を伸ばした。
この顔は、イタズラが成功したときの顔。
立場こそ変わっても、彼は変わらずにいてくれる。
「もう……」
「へへっ…そっち行っていい?」
呆れ顔を精一杯向けるけど、ダメ、たぶん私の顔には思いっきり「嬉しい」って書いてある。
「……うん、いいよ。あっ、ケガしないでよね…!」
「しねぇよ。俺だってもうプロだからな」
「……中一のとき」
「ちょ、やめろ!もうあれは忘れるって言ったろ!!」
「ふふふっ」
充は中一のとき、私の部屋にこっそり入ろうとして木から落ちた。
幸い大したケガは無かったものの、本人としてはかっこ悪いところを見られたと思っているらしく、定番のからかいネタになっている。
「ちょっと窓から離れとけ」
「はぁーい」
彼は、助走もないのに、ふわりと跳躍した。
昔からの運動神経にプラスして、アイドルになってからの日々のトレーニングの賜物だろう。
充のことだから、たぶん、人一倍やってる。