「紅羽……本当に頼むの?」

「頼むよ。あの子のことだから、絶対ポロッと告白して付き合うと思ってたのに、出会って2ヶ月経っても何も無いなんて、おかしいじゃない」

「本人たちに任せたら…?」


二段飛ばしで登るのに疲れて、ペースダウン。

なのに、紅羽は悠々と…いや、ズンズン二段飛ばしで登っていく。


「一生あのままだよ絶対!!」

「ん~まぁそれは思うけど…」


そして辿り着いてしまった。


――――美術室


「彰(あきら)く~ん?」

「はーい…って、万智か」


白シャツのよく似合う私の幼なじみは、柔らかな笑顔で振り返った。

彰くんは充のお兄さん。

伊東 彰。3年生。美術部。

優しさをそのまま形づくったような人。

顔にはほぼ常に、笑顔。

身長180cmの細身で、さすが充の兄と言うべきか、スタイルはいいし、醸しだす雰囲気も常人とは違う。

目が特に似てる。

でも、ちょっと小悪魔でイタズラっぽい笑い方をする充とは違って、彰くんは、傍にいる人を包み込むような…誰にもできない笑顔をする。


……でも、その笑顔に何か違和感を感じた。


「今日もこれから描くとこ?」

「いや、今日は止めとこうかと…」


やっぱり、笑顔に陰りが見える。


「そっか…」

「うん、それであの……佳月は大丈夫??」

「え、先輩知ってたんですか?」


すかさず紅羽が入ってきた。

たぶんここからが、本題。


「あ~うん、まぁね」


明らかに何かを隠していることが分かる、苦笑い。

彰くんは、嘘が苦手。


「先輩、お願いがあるんです」


いきなり話の流れをぶった切った紅羽に、少しだけ目を瞬かせながらも、彰くんは微笑んだ。


「何でも言って、俺にできることならするよ」