おはよ、ありふれた朝の挨拶。
聞き慣れた声に、自然と振り返った。
「おはよ、紅羽(くれは)」
「小春はまだ来てないの?」
「うん、珍しく寝坊かな?それとも風邪?」
紅羽は、ん~と考えた後、結論を出した。
「具合悪そうなことLINEでも言ってなかったし……寝坊じゃない?」
「珍しいね~」
「あ、LINE来た」
「小春?」
「うん」
紅羽は、私にも見えるように画面をこちらに向けてくれた。
細長い指がトーク画面をタップすると、
《なんかすごい風邪引いた(;_;)》
という文面と、写真が送られていた。
その写真には39.5℃と表示された体温計。
《今は38℃ぐらい》
あまりに高い温度に、疑いが生じた。
「……え、これインフルじゃないの?」
「聞いてみる?」
「うんうん」
キーボードを出すと素早く文字が表示されていく。
手入れされた爪が煌めいた。
「…ちゃんと診察受けたってさ?」
「じゃあ風邪かぁ…今日の帰りにでもお見舞い行く?」
「…あ、待って、私にいい考えがある」
紅羽は、唇を三日月型に歪めて、イタズラっぽい笑顔で笑った。
神田 紅羽(かんだ くれは)は、中学からの同級生。
眉目秀麗。
滑らかな素肌。
色気あふれる唇。
身内の贔屓目無しでも超美人。
それに加えスラッと伸びた手足。
身長は165cmのモデル体型。
本人は何てことない風に言うけれど、頭のてっぺんからつま先まで手入れされていて綺麗。
背景には常にバラが舞っている。
……だけど
『勝手に変な幻想抱いて近づいてきて、勝手に幻滅して離れてく男ばっか、本当つまんない~~~~』
と、不満を漏らしたこともある。
それも仕方がない。
彼女は見た目は絶世の美女でも、やはり人間、一癖も二癖もある。
ごくたまに胡座もかくし。
甘いものも嫌い。
キレると男言葉も出てくる。
そして何より男前。
めちゃくちゃな世話焼き。
……黙ってればただの絶世の美女なんだけどね……
想像や幻想を振りかざされて、恋愛なんて出来るはずもなく、彼氏はいない。