「もしもし?」
『あ、万智、ひさしぶり』
「うん…ひさしぶり、どうしたの?」
『最近会えてないからさ、声、聞きたくなった』
そんな胸焼けしそうなことを言う彼だけど、少し声に覇気がない。
たぶんこれは相当疲れてる。
でも、そのせいかちょっと掠れている声にドキドキしてしまう自分がいる。
……バレたら絶対いじりたおされる。
「充はなんでそう…そういうことを恥ずかしげもなく……」
『俺だって照れてるし~』
「それにしてはかなりサラッと言わなかった?」
『だって本心だし、それに、照れる万智を見るのは俺の趣味だし?』
「いいご趣味をお持ちで…」
『ハハッ、やっぱお前と話してるのが一番落ち着くな……あぁ~あ、ずっとお前といられたらいいのにな』
珍しい、疲れていても弱音なんて滅多に吐かない彼が。
何かあったのかな?
気になるけど……聞いてもいいのかな?
迷いながら、ぼんやりと勉強机の蛍光灯を眺めていたけど、その答えはあちら側からもたらされた。
『……万智』
「ん、なに?」
『俺、ドラマの主演やることになった』
「え、よかったじゃん、おめでと!」
『密かに俳優やってみたいと思ってたから、今回の話はかなり嬉しい』
疲れた声に、希望が滲む。
「……それにしては、元気ないね?」
『あぁ、恋愛ドラマなんだ…モデルと共演する……たぶん、キスシーンとかもある』
「っ……」
無意識に息を吸い込んでいた。
どうか気づかないで…!
「………そっか、私の方は大丈夫だよ。心配しないで」
本当は嫌、ものすごく嫌。
でも、そんな私のわがままで、彼の仕事を邪魔できない。
誤魔化すように奥歯に力を入れた。
『はぁ……もう、万智はいっつも肝心なとこに気がつかないよな』
「え、」
どうしてそんな言い方するの?
私、何か間違えた?
『……俺は嫌なんだって』
「へ…?だって、俳優やりたいって」
『じゃあ、万智は嫌じゃないんだ、俺が万智以外の女の子と、手を繋いだり、抱き合ったり、キ』
「嫌に決まってるんじゃん!!」
気がついたら、スマホを力いっぱい握りしめて叫んでいた。