「私、そろそろ帰るね」

 そう言って立ち上がり、スカートに着いた埃(ほこり)を払いながら

 「あーぁ、腕また焼けちゃった。今日は邪魔してごめんなさい。小説楽しみにしています」

 「あ、こっちこそありがとう。また、よろしくお願いします」

 彼女は軽く会釈をして、日の降り注ぐ中を足早に歩いて行った。

 木陰から出ると、日の光はもう夏だと言う事を知らしめていた。

 その夜、彼女からSNSの着信があった。


 「今村沙織***今日はありがとうございました。今度は大学で会いましょう。次の作品楽しみに待っています。亜咲先生」


 思わず、顔が綻んでしまった。亜﨑先生と言う言葉に。

 返信に


 「こちらこそ、ありがとうございます。また、読んでもらえるのを励みに執筆いたします。一番目の読者様へ」


 そう、彼女へ返信をした。

 だが僕は、悩んでいた。

 次に執筆する小説の内容が決まらないからだ。
  
 今日、彼女に読んでもらった小説に、何かヒントを求めチェックをしていたが、過去の作品に僕の求める答えはなかった。

 と言うよりも、過去の自分に頼っていては、これからの僕の小説には先がない。そんな事は当の僕自身が一番良く解っている事だ。

 そしてその小説を僕は、僕が一番気になっている小説コンクールに投稿しようと思っている。
 正直、時間はあまりない。

 あれやこれやと本を見たり、ネットで何かピンとくる題材はないか検索するも、これと言ってよさそうなものは見つからなかった。