次の日も、有田優子の様子を見に彼女に所へ来ていた。

 ドアの前でインターフォンを押す。すると「はーい」と声が返りオートロックが解除された。

 ドアを開けると部長はティシャツにジーンズ姿で僕を迎えてくれた。後ろの長い髪をオレンジ色のチーフで結んで。

 「さっ上がって」「あ、はい、お邪魔します」

 「もう、昨日もずっといたんでしょ。お邪魔しますなんて」

 腰に手をやりプンとする。沙織と違った新鮮さを感じさせた。

 「もう、大丈夫そうですね」

 「ありがとう」とにこやかに返してくれた。

 居間のソファに座り「今お茶淹れるね」と彼女はキッチンに向かった。

 「亜咲君、掃除もしてくれてたみたいね。ごめんね凄かったでしょ」

 「あ、いいえ暇でしたから」


 「それに洗濯もしてくれたんだね、ありがとう。でもね、下着一枚消えちゃったのね。亜咲君知らない、レースの入ったやつ」


 「え、ぼ、僕取っていませんよ。絶対に取っていませんよ」


 慌てる僕にお茶を出しながら「嘘よ」とにっこと笑って言った。


 「どうぞ、冷めないうちに」

 部長の入れるお茶は物凄く美味しかった。

 「美味しいでしょ。お茶の入れ方だけは幼い頃、叩き込まれたからね」

 「お母さんに」


 「ま、そんなところかしら」と窓の景色に目をやった。その表情は少し寂しさを漂わせていた。


 「ところで亜咲君、あの小説あれから如何なった」

 部長に散々叩きのめされたこと思い出す。

 「いやあ、あれから手付かずです」

 「そっか、やっぱりね」彼女は立ち上がり、僕をあの寝室兼仕事場へ招いた。

 そして、びっしりと詰まった本棚から一冊を取り出し僕に渡した。

 手に取ったその本の作者「榊 枝都葉(さかき えつな)」

 それは美野里が崇拝する作家、僕にクリスマスの時プレゼントしてくれた本の作者。そして沙織と初めて一緒に見た映画の原作者。

 改めてその本棚を見上げると、そこにはその作家の本が所狭しと並べてあった。そして僕も持っているあの本もそこにあった。

 「部長この作家」

 「あら、知ってるの。人気だからね彼女は」

 「実はこの本持っているんです」とあの本の背表紙を指さす。

 「それにこの前、彼女と……映画……観ました」

 部長は微笑んで僕の顔を見ながら「そう」と答えた。