「わ、私見るつもりなかったんだけど、ちょっと目に入って、ほ、本当に見る気はなかったんだけど。お、おもしろそうだなって……」


 面白そう。


 何だか、うれしかった 。


 大学に入ってから自分の小説を読んでくれたのは、文芸サークルのメンバーだけだった。

 彼らの感想、いや愚評はもう嫌と言うほど訊かされている。

 小説とは何かとか、文学はこの小説からは何も感じられないとか。

 まあ中には「いいんじゃない」何て言ってくれる仲間もいたが、だれ一人僕の小説が面白いと言ってくれる奴はいなかった。

 だから彼女から出た「面白い」と言う言葉が嬉しかった。

 下を俯き少し恥ずかしそうにしている彼女に


 「もし良かったら、読んでみる」


 とっても恥ずかしかった。でも彼女は、ふっと顔を上げ笑顔で「はい」と答えてくれた。 

 
 木陰の下に二人で並んで座り、ばらばらになった番号をそろえ、束になったA4のコピー紙を手渡した。


 彼女は表紙をめくり、僕が創ったストリーの世界へ入っていった。


 時折吹く風が、彼女の優しく柔らかい香りを運んでくれる。

 その彼女の真剣に読む姿を見つめ、その姿にその表情に胸が苦しくなるのを感じた。


 彼女が今呼んでいる小説は、幼いころから知り合う幼馴染の男女が、成長と共にお互いを意識し合い、お互いに気付かないふりをしながら想いを募らせる短編物語。僕の得意とするジャンルは恋愛だ。


 未だ自分は恋愛経験は少ないのだが。

 木漏れ日の中、紙をめくる音が静かに僕の耳に入ってくる。

 彼女は時折「クスッ」と小さく笑い、そしてたまに「ふう」と軽くため息をついた。


 そして、コピー紙の束を直し、僕へ手渡した。