僕のアパートからすぐ近くにある公園。

 その日はバイトが休みだった。

 長雨が続いた後の晴れた公園には、小さな子供たちが楽しく遊ぶ声がする。

 その声を聴きながら、僕は自分の書いた小説を読み返していた。

 ポンポン、僕の足元にボールが転がり

 「おじさぁーん。ボールとってぇ」

 向こうから小さな女の子が呼びかけてきた。

 「お、おじさんはないだろう」

 俺、そんなに老けて見えるかなぁ。

 僕は亜咲 達哉(あざきたつや)文系大学の3年生。将来は作家(小説家)を目指している。


 小説を書く様になった切っ掛け?

 それは……何となく。


 高校の時、なんとなく書き始めた小説。書いてみると以外にも物語を書くことが、とても好きになっていた。

 自分の中でめぐる世界が好きになっていた。

 今まで何回か小説の大賞に応募してみたが、どれも一次選考にも引っかからなかった。

 いわゆる落選と言うことだった。

 でも書くことは、物語を模索するのは好きだった。だから、今も小説を書いている。大学の文学部に進んでまで。


 「ねぇ、おじさん、早くぅ」

 解った解った。

 手に持つコピー紙を置いて足元にあるボールを取り、そっと女の子の方へ転がしてやった。

 コロコロ

 ボールを受け取るとその子は

 「おじさん、ありがとう」そう言って手を振って微笑んでくれた。

 どういたしまして。そう微笑み返し、コピー紙を取ろうとした時。


 悪戯(いたずら)な風が吹いた。