僕は動揺しながら

 「そ、そんなんじゃない」

 「おいおい、そんなに顔赤くして力まなくても、第一お前は女には奥手だからな。

俺は安心してるんだよ、妄想の恋愛から現実の恋愛に目を向けたっていうところをな」


 「だから、宮村……」


 「そこ、私語は謹んでください」


 部長から注意の槍が刺される。

 宮村は小声で

 「今度飲みに行って詳しく訊かせろ」

 顔をニッとさせ、資料を見る振りをし始めた。 

 手元にある資料には、今回出稿されるリストとその著者名、それに学園祭までのタイムスケジュールがびっしりと記載されていた。

 その中でも一番注目されるのが、部長である「有田 優子(ありた ゆうこ)の作品だろう。

 彼女は学生でありながら、既にプロの作家として活躍している。

 数ある彼女の著書の中で、大きな大賞を受けた作品が2つ。彼女は今、もっともトレンディな若手作家として注目されている。

 聡明で美人な彼女は、小説作家を目指す僕らにとって憧れの存在である事は言うまでもない。

 彼女は今回、既に発売されている既存作品一点と、この文芸誌の為に書き下ろした中編作2点を寄贈した。

 この文芸誌に彼女の書き下ろし作品を載せると言う事は、この文芸誌の売り上げを考えての事だと僕は思った。同じようなことを考えている部員が、臆せず部長へ訊いた。

 「部長の書き下ろし作品が文芸誌に載ると、相当反響が大きいですよね」

 反響が大きい。いわば売れると言う事を遠回しに言いたかったのだろう。

 だが、彼女はこの問いに意外なことを返した。

 「私は今、作家として作品を執筆しています。当然、作品を出版するには、出版社の力を得る事が一番だと思っていました。

でも執筆を重ね、いろんな状遇(じょうぐう)にあたり、その出版社だけに依存するのは、私自身これからの先が無いように思えてきました。

今は、出版社意外にも数多くのアプローチの方法が存在知得ます。

だから、自分が自信を持って出す作品だからこそ、今までと違ったアプローチも必要になると考えています。

ですからから今回は、その一環でもあるのです」

 拍手が沸いた。